みんなの絵本 大っきい子の絵本

斎藤隆介のおはなし と 滝平二郎の切り絵

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花さき山

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

この花は、ふもとの 村の にんげんが、やさしいことを ひとつすると ひとつ さく。

あや、おまえの あしもとに さいている 赤い花、それは おまえが きのう さかせた 花だ。

きのう、いもうとの そよが、

「おらサも みんなのように 祭りの 赤い べべ かってけれ」

って、あしを ドデバダして ないて おっかあを こまらせたとき、おまえは いったべ、

「おっかあ、おらは いらねえから、そよサ かってやれ」

そう いったとき、その花が さいた。

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ソメコとオニ

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

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「フーン、テマギ、だれにかくんだア!」

「おまえのお父ウにだ」

「なんて かくんだァ?」

「金の俵を一ぴょう、馬につんで 岩屋のまえに とどければ ソメコは かえしてやる。
もし とどけねば くっちまう、ってな」

「フーン。じゃはやく かいちまえ、そしてはやく カクレンボしよう!」

「おれは オニなんだぞ。
おまえ、おれが こわくねえのか?」

「ナ、おまえ、オニなら オニゴッコしよう!

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ふき

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

大太郎がふきとよく遊んでくれるので、ふきのとうちゃんの仕事は、とってもはかどった。

ふきのとうちゃんは、だいば山の山子(やまご)だ。

山子というのは、木こりのことだ。

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でんでろ山の青おには悪いやつで、春がちかくなると気があらくなって、いつもやってきては、山をあらすのだ。

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おには、まっかな口から火のような なまぐさい息を、わおう、わおうとはいて、つっ立っていた。

おにを追いつめた山子たちは、おのや、まさかりをふり上げて、じりじりとおににせまっていった。

その先頭にはとうちゃんがいた、

おには、みんなにごうれいをかけた とうちゃんを、わしっと、かた手でつかみ上げると、二、三度ふりまわして、わきの岩にたたきつけた。

あっ!

「とうちゃん!」

たおれているとうちゃんに、ふきがすがりついた。

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「おらは、きっと、とうちゃんのかたきをうつ・・・。」

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モチモチの木

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

まったく、豆太(まめた)ほど おくびょうな やつは ない。

五つになって「シー」なんて、みっともないやなァ。

でも、豆太は、そうしなくっちゃ ダメなんだ。

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豆太は まよなかに、ヒョッと 目をさました。

「ジサマッ!」

こわくて、びっくらして、豆太は じさまに とびついた。

じだまは、コロリと タタミに ころげると、はを くいしばって、うなるだけだ。

-----イシャサマォ、ヨバナクッチャ!

ねまきのまんま。
ハダシで。
半ミチもある ふもとの村まで・・・。

豆太は なきなき はしった。
いたくて、さむくて、こわかった。

でも、だいすきな じさまの しんじまうほうが、もっと こわかったから、なきなき ふもとの いしゃさまへ はしった。

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ユとムとヒ

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

ナの国の、フの山に 陽がのぼった。
十三から十六まで、ことし オトナになる
男の子ばかりである。
これから、四年めごとの 秋におこなわれる 競技がはじまる。
せんとうのユは うしろのほうのムを ふりかえって わらった。
ムもユのほうを みた。
ユは十六、ムは十三、ふたりは親友だ。
だが ふたりは まるでちがう。
ユはおおがらで いろ白の しずかな少年だ。
ムはカリリと やせて いろの黒い こがらな少年だ。

ひろばのうしろから ひめいがおこった。

「ヒだ!」
「ヒがきた!」
「にげろ!」
「いいや狩れ!」
「射ころせ!」
「たすけてェーッ!」「ゆみだ!」
「やり!」

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火の鳥

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

夜ぞらに くろぐろとつらなる 山のなみのなかの、大森山(おおもりやま)のてっぺんから、七(なな)いろにかがやく 火の玉が ふきあがって、西から東へ とんだのである。

「オド!おきろ、たいへんだ、火の鳥とんだ!」

あさのさけびに はねおきたオドが、縁にたって そらをみあげたときは、星の花火も 七いろの火の玉も もう みえなかったが、それはまさしく 火の鳥に ちがいなかった。

「—–ことしこそ、なんとかと ねがっていたのに、ことしもまた、三ねんつづいて ケカチかああ・・・」

火の鳥が とぶとしは かならず キキンがくるのだ。

それも ことしで 三ねんめだ—–。

あまどをしめて、しんばりをかって、くらいなんどで そでに そいねをしてやりながら あさはかんがえた。

「火の鳥は、たいじさねば なんない。
おらも ことしは十二だ。
もう 子どもではない—–」

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半日村

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

うう、さむさむ。

これから話す、半日村(はんにちむら)は、えらくさむい村なんだ。
なにしろ、半日しか 日があたらないんだからな。
半日村のお米は、いつでもよその村の、はんぶんしかとれなかった。

半日村に 一平っていう こどもがいた。
あるばん、一平の、とうちゃんと かあちゃんが、
くびをあつめて はなしあっていた。
「あァあ、おらたちの村は、なんという村かのう。
あの山さえ なかったらのう」
「だめさ、山は山さ。うごかせやしねえ。
わるい村に うまれたとおもって、
あきらめるより しかたがねえさ」

一平は、つぎの朝、ふくろをかついで 山にのぼった。

てっぺんにつくと、てっぺんの土を
ふくろにつめて おりてきた。
おりてくると そいつを まえのみずうみに
ざあっとあけた。
あけおわると、また、山へのぼった。

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ひばりの矢

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

どうして ひばりが 矢を射るかって?

むかし、ひばりの巣は、天にあった。

そのころ 天では 黒雲のいきおいが つよくって、黒雲(くろくも)おやじは、いつも わがものがおに 天をおしまわっていた。

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「子どもは ふみころされ 女房は 気がちがっても みんな だまって 黒雲おやじに あたまを さげているのか。
おれたちは からだは 小ッポケだが かずは 天の川原(かわら)の石ほども いるじゃァねえか。
みんなで かかったら 黒雲おやじでも やっつけられるぞ!
たとえ やっつけられなくたって、だまって ふみころされるより なんぼか マシだか。
おれは しぬときも 目をあいて、黒雲おやじを にらみながら しんでやるぞ、おれはやるぞ!」

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八郎

斎藤隆介 作
滝平二郎 画

ある日のことせ。

八郎がまた、はまさ来たっけせ、
ひとりの めんこい おとこわらしが、
海見てわいわい泣いていたと。

まいとし、まいとし海あれてせ、
わたしと おとうの田は、
しお水かぶって だめになって
しまうんだと。

・・・・・

八郎はよ、
「よおーっ!」って、
山さ手をかけて かつごうとしたと。

したども、山は山だもの、
どしどしといったども、少し動いたっきりで、
あとは動かねかったと。

八郎はな、これは だめかなと思ったと。

したどもしぇ、あの男わらしこの、
なみだ ふりとばして泣いたのを考えるとよ、

「なあ、ん、の、こったら山あーっ!」
と叫んだと。


そして、山の ふもとと てっぺんさ
両手をかけると、
めきめき、ゆっさゆっさ、
ぐらぐら、がらがら、よおむ、む、むーんと、
とうとう しょい上げて、
顔まっかに力んでな、
ひょろひょろ、ひょろひょろって、
はまの ほうさ歩き出したと。

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でえだらぼう

斎藤隆介 作
新居広治 画

でえだらぼうは、
三十まで足が立たなんだ。

えずこという わらであんだ
ゆりかごに けつを入れて、
ざしき いっぱいに ねそべって、
うえー
うえー
と泣いておった。

泣き やめるのは、
ままを食う ときだけ。

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しわんだ じさまは、

でえだらぼうの
右の ほうと 左のほうを、
ひとつずつ力いっぱい
ふっぱたいた。

でえだらぼうは、
びっくらこいて、
泣きやんだ。

「でえだらぼう、立て!」

「でえだらぼう、歩け!」

でえだらぼう歩きはじめた。
ずしいん、ずしいんと
やなり しんどうさせて、
生まれて はじめて
じぶんの足で歩いた。

「おまえは せけんを見に歩いてるだ。
よォくせけんを見るがよい。
おまえが一つ ひとさまのために
よいことをすれば、
その たんびに一尺せいが高くなる」

・・・・・
・・・・・

三こ

斎藤隆介 作
滝平二郎 画

三(さん)コは、秋田の平野の子だ。

オンチャとは、土地をわけて もらえない、次男坊(じなんぼう)・三男坊(さんなんぼう)たいのことだ。

オンチャたちは、なにかほかの しごとをしたいのだが、せまい ちいさな村にしごとなんて、そんなに あるわけのものではない。

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「オンチャには土地がねえから、なんとしてもダメだァ!」

「ンだども、土地はみんな兄貴たちのものよォ、冷や飯ういの おらたちァ根なし草だァ。」

ヨォシ、待てェー。いま この山を、海の中サぶちこんで、土地をふやしてけるゥ。」

・・・・・

雲は わらった。

「タハハ、三コのばかヶよ。」

「タハハ、ばかヶだからばかヶよ。山は山だ。海サぶちこむ ばかヶがあるか。
ハゲ山のオイダラ山に木を植えろ、山しごとができりゃオンチャがたも食えら。
よそのオンチャがたは、そうして食ってら。」

雲は そういうと、ホカホカわらって行っちまった。

「ンだンだ。」オンチャがたは手をうってよろこんだ。

「そうか、そうだナ。」三コも、ズシィーンと山をおろした。

よろこんだのは山だ、オイダラ山だ。
コロコロってわらった。

・・・・・

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天の笛

斎藤隆介 作
藤城清治 画

ある時、とつぜん雪がふってきて、
雪は、いつまでたってもやまなかった。

はねの強い大きな鷲(わし)も、

いつもは おしゃべりな雀(すずめ)も、

おしゃれな燕(つばめ)が雪の上に体を横たえてしまった。

「白鳥さん たおれちゃいけない。
たおれたら死ぬ。がんばるんだ」

「燕くん、ねむっちゃいけない、
目を あくんだ、起きるんだ、立つんだ」

「いいや ひばりさん、ぼくは もうダメです。
ぼくは死にます。
こんなに長い間 寒いのは初めてです。

だれかがあの、あつい雪雲をつきやぶって、
太陽のカケラを取って きてくれれば、
地面は あたたかく なるんだけど、
ぼくには もう間に合わない。
さようなら、ひばりさん」

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猫山(ねこやま)

斎藤隆介・作
滝平二郎・絵

三平は、たかいガケから ソーッとおりて、岩にかくれて つりざおをだす。

フチのイワナは はりのさき、ブーンとむねへ とびこんでくる。
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三平は ちかみちをして かえるはずが、もっとふかい 山ンなかへ まよいこんじまった。
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「アッ、こんな山ンなかに いえがある!」

戸をあけていれてくれたのは、いろの白い小さな女の子だった。

三平は ざしきにあがって おどろいた。

いるいる、男の子女の子、十四五にんもいて、それがみんな ぎょうぎわるく ねそべったり、まるくなって くびをあしにつっこんだり、うずくまって くんだうでのうえに あごをのっけていたりした。

そうして チロチロ 、チロチロ 三平のこしのビクをみては

「さかなだ!」「さかなだ!」と ささやきあっていた。
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夜なかに、じぶんをそっとよぶこえに、三平はふと目をさましたョ。

「三平さん、はやくにげなければ、あの猫ばばに くわれちまいます。」

・・・・・

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