そこなし森の話
佐藤さとる 作
中村道雄 絵
むかし、上州(群馬県あたり)否含山(いなふくみやま)の山すそに、うすぐらいほど木のおいしげった森がありました。
しかでもきつねでも、この森ににげこんだが最後、めったなことではみつからなくなってしまうのです。
ある年の秋のことです。
どこをどうまよいこんだのか、その、そこなし森のまん中で、あせをふいている旅人がいました。
ただの旅人ではなく、六部(ろくぶ)のすがたをしていました。
六部というのは、ほうぼうのお寺や神社をおまいりしてあるく人たちのことです。
年をとった六部のすがたの旅人は、むりやり森の中にもぐりこんでいって、やがて見えなくなりました。
まるで、そこなし森に、のみこまれてしまったようでした。
—三日たつと、このそこなし森の草原には、掘っ建て小屋が建ちました。
その小屋のまん中に、きちんとすわって、そのとしよりは、とてもうれしそうでした。
「なんとも、わしにふさわしい場所がみつかったもんじゃ。ここなら、もう一生動かなくてもいい。思いきって、筑紫(つくし 九州)の山をでてよかった。」
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森のけものが、この小屋の前に
「あれは、けがをしているな。びっこをひいていたぞ。」
そして、
いきなり耳の近くで、パン、と、やきぐりがはぜたようなするどい音がしました。
「こんなことがあると、また、よそへいきたくなるわい。」
そして、大きなためいきをついたのでした。
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きつね三吉
佐藤さとる 作
岡本 順 画
むかしむかし、否含山(いなふくみやま)という山のふもとの村に、一けんのかじやがありました。
村のかじやは、かまやくわやなたをつくろのがしごとです。
小さいものなら、ひとりでもできますが、たいていは、ふたりがかりでつくります。
ふたりが、いきをあわせてたたきはじめると、トンテンカン、トンテンカンと、ちょうしのいい音が、村じゅうにひびくのでした。
おやかたとむきあって、大きなかなづちをふりまわすのは、三吉でした。
この三吉は、三貫目(一貫目は三.七五キログラム)の大づちをぶんぶんふりまわして、いきもきらせませんでした。
「ふんとまあ、てえしたもんじゃい。」
ある日この村へ、見たこともないあやしげな、たびの坊さんがとおりかかりました。
坊さんは三吉に、いきなり声をかけました。
「おまえ、こんなところでなにをしている。」
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それっきり、三吉はもどってこなかったのです。
三吉がいなくなって、三月ほどたった冬のさむい夜
雪の中に、くろい生きものが、たおれていました
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「あれ、おとう、このきつね、まだ生きているんじゃないの。」
ウメは、思わず雪の中にとびだしました。
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むかしのきつねのなかには、人間にばけたまま、りっぱな一生をおくるものがあったそうです。
まめだぬき
むかしむかしのことです。
否含山(いなふくみやま)という山のおくに、ひとりでくらしている、すみやきは、
おやゆびの上に、のるくらいの、小さなたぬきを、一ぴきつかまえました。
「ほほう、めずらしいものをつかまえた。これが、話にきく、まめだぬきというやつかな。」
そういって、すみやきは、そのまめだぬきを、竹づつに入れ、たいせつにかうことにしました。
あるとき、町の人が、その竹づつをふしぎに思って、ききました。
すみやきは、しょうじきな、おひとよしでしたから、よせばいいのに、まめだぬきをだして見せました。
町の人は
「どうだろう。わたしにその小さなたねきを、ゆずってくれないか。そのかわりに、お金でも、お米でも、ほしいだけあげるが。」
「いや、これは、わしの子どもみたいなもんだから、ゆずるわけにはいかないのですよ。」
そのとき、町の人は、だまっていました。
でも、あきらめたのではありませんでした。
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つくえの神さま
タツオは、小学校にはいったとき
買ってもらったばかりのころは、うれしくてうれしくて、まいにちつくえの上をかたづけ、ひきだしの中もきちんとしておいた。
三年生になったころごろ
「タッちゃん、あんたのつくえは、ごみばこみたいよ。すこし、きちんとしなさい。」
おかあさんにはしょちゅうしかられる。
<宿題をあっちのテーブルでやろうかな。だも、きょうは、あっさりすむはずがない。なにしろ算数の問題がいっぱいあるもの。
そうすると、夕ごはんまでにはおわらない。
ずっとテーブルをつかっていたら、またおかあさんにしかられるだろうなあ。>
いすにこしかけ、つくえにほおづえをついて、ぼんやりしていると、ふいにどこからかふしぎな声がした。
『はじめ!』
タツオはぎょっとした。
?????
おおきな きが ほしい
ぶん さとうさとる
え むらかみつとむ
「おおきな おおきな 木が あると いいな。ねえ おかあさん。」
「ふふふ。」
おかあさんは ちょっと わらいました。
むかし、おかあさんも かおるくらいの ちいさな おんなのこ だったころ、木のぼりを したことが ありました。
「ほんとうに、木のぼりが できるような、おおきな 木が おにわに あると いいわねえ。」
まず、いちばん したの えだまで、はしごを かけなくては いけません。
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かおるの 木を かりて、いえを つくらせてもらっているのは、りすだけでは ありません。
とりの かけすと、やまがらが います。
みはらしだいからは、とおくの 山が みえます。
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「そういえば、おとうさんも むかし、かおると おなじようなことを かんがえたことが あったっけ。」
「ふーん。」
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ふしぎな ふしぎな ながぐつ
さとう さとる・さく
むらかみ つとむ・え
かおるの うちの かきねの したに、小さな きいろい ながぐつが 一つ ころがっていた。
小さすぎて、かおるには とても はけない。
「あかちゃんの ながぐつかな。」
かおるは つぶやいた。
いくらもったいなくても、かたっぽだけでは どうしょうもない。
かおるは てのひらの うえに 小さな ながぐつを のせた。
「おとした ひとが、さがしに くるかもしれないな。」
つぎの日、かおるが みにいくと、ながぐつは、まだ、そのまま
その、つぎの日
ながぐつは、かおるにも はけるほどの 大きさに・・・
「よし、はいてみようっと。」
おおいそぎで、うんどうぐつを ぬいで、ながぐつに ひだりあしを つっこんだ。
ぴったりだった。
とたんに、きみょうな ことが おこった。
「やややややっ。」
かおるは、そんな こえを あげた。
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うさぎの ゆきだるま
佐藤さとる 作
しんしょう けん 絵
うさぎの 国の うさぎ町に、ミミナガさんの うちが ありました。
おねえちゃんは、ミミナガ・ミィ
したは、おとこのこで、ミミナガ・タンタと いいます。
ふゆの やすみに、ミィと タンタは、いなかの おじいさんうさぎの いえに、とまりがけで あそびに いくことに なりました。
こどもだけで いくのは、はじめてです。
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ミミナガおじいさんが まっていて、にこにこと むかえてくれました。
「ぼくたち、そとで あそんでも いい?」
「うらの ものおきに、そりも こどもの スキーもあるぞ。
おまえたちの おとうさんが、むかし つかったものだ」
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「ねえ、ゆきだるまを つくろうよ」
そのころから、ちらちら ゆきが ふってきました。
タンタは、いそいで ものおきへ いって、そりを もってきました。
「それえ!」すべりだしたら・・・、
たちまち すごい スピード!
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とうとう そりが ひっくりかえって、タンタは ほうりだされました。
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かぜに もらったゆめ
佐藤さとる 詩
村上 勉 画
ねむれないまま
ふとんの なかで
みみを おさえて
いるうちに
トントン
おばけ ばけもの
ばかげた おどり
おどっているなら
やめとくれ
トントン
やがて まぶたが
くっついてくる
かぜも いっしょに
ねるみたい
トントントン
たくさんの作品を残した佐藤さとるさん
不思議な物語と村上勉さんの絵がマッチング
まだまだ読み進め紹介できればと考えています