驚くほど緻密に描かれた絵本の数々。
ロベルト・インノチャンティ
Roberto Innocenti
1940年、イタリア フィレンツェ近郊に生まれ、独学で絵を学ぶ。
多数受賞している。
エリカ 奇跡のいのち
ルース・バンダー・ジー 文
ロベルト・インノチャンティ 絵
柳田邦男 訳
わたしは 1944年に 生まれたことは たしかです。
でも、誕生日が いつであるのか わかりません。
生まれたときに つけられた名まえも わかりません。
生まれたのが、どこの町なのか 村なのかも わかりません。
きょうだいが いるのか どうかも わかりません。
知っていること といえば、
強制収容所に 入れられる直前に
たすけられたとき、
わたしは 生まれて
やっと2~3か月の赤ちゃんだったと いうことだけなのです。
・・・・・
お母さんは わたしを汽車から外に
ほうり なげたのです。
大きな戦争 第二次世界大戦。
かつてヒトラーが権力をにぎっていた
ナチス・ドイツの歴史。
ユダヤ人は家の財産もうばわれ、
住みなれた町からおいたてられ、
汽車で強制収容所に送りこまれたすえ、
毒ガスなどで何百人も殺されたのでした。
お母さんの勇気で
エリカのかけがいのない命は、
今も 輝いています。
語り継がなければならないと、
信念を持って描かれた絵本です。
百年の家 the house
絵 ロベルト・インノチェンティ
作 J・パトリック・ルイス
訳 長田 弘
・・・
1936
今日は刈り入れの日。
果てしなく「コムギと戦う」日。
家のみんな、総出で、大鎌をふるい、選りわける。
収穫量が少なかったら、戦いは負けだ。
負けたら、希望を刈り取り、不満を取り入れるだけになってしまう。
1942(第二次世界大戦下)
わたしは最後の避難所になった。
・・・
1967
母親の柩を乗せた車が、わたしの前を通り過ぎてゆく。
1973
わたしはもうだれの家でもない。
・・・
さまざまな家族が住んで、
たくさんの笑い声を耳にし、
たくさんの銃声も耳にした。
なんども嵐が来て、去って、なんども修理が くりかえされたが、
結局、わたしは住む人のいない家になった。
ある日、キノコとクリを探しにきた子どもたちが、勇敢にも、
人の住んでいない この家のなかに入りこんできたのだった。
現代の夜明けのときに、わたしには、新しい いのちが吹き込まれたのである。
どれだけの時間を費やして、
描かれた絵本なのでしょう。
すごいの一言です。
ローズ・ブランチュ
Rose Blanche
絵/ロベルト・イノセンティ
文/クリストフ・ガッラスとロベルト・イノセンティ
共訳/ロニー・アレキサンダーと岩倉努
監修/中野孝次、永井一正
戦車が通ると、しき石に火花が とぶの。
・・・・・
とつぜん、電気の流れている鉄条網があって、
わたしは、思わず立ち止まってしまったわ。
そうしたら、むこう側に子供たちが立っているじゃない。
知っている子は いなかったわ。
すると、いちばん小さい子が、
「みんなお腹すいてるの‥」
と言ったのよ。
だから、わたしは持っていたパンを、
ばら線にさわらないように注意しながらあげたの。
その子たちは、木で作った長屋の前に立っているだけだったわ。
夕陽が丘の かげに沈もうとしていて、
風が強く、寒かった‥。
・・・・・
ローズ・ブランチュは、食べものを学校かばんの中にかくし、早めに こっそりと学校を ぬけだすのです。
・・・・・
映画『縞模様のパジャマの少年』を思い出す。
ナチス将校を父に持つドイツ人少年と強制収容所内のユダヤ少年が、鉄条網を間に友情を育む。
そして、
ユダヤ少年のいなくなった父を捜すのに、ドイツ人少年を鉄条網の中に引き入れてしまう。
二人はパジャマを脱がされ
たくさんのユダヤ人と一緒に扉の中に・・・。
子供がいない!
父のナチス将校は
「もしや?!」と、駆け出す。
息子の名を呼ぶが、返事は・・・ない。
ガール・イン・レッド
The Girl in Red
ロベルト・インノチェンティ 原案/絵
アーロン・フリッシェ 文
金原瑞人 訳
森のすみっこに、おとなしい女の子がいた。
名前はソフィア。
ソフィアは バッグにビスケットと蜂蜜とオレンジを つめると、
フードつきのコートのボタンをとめた。
お母さんの言葉も響いていた。
「わき道に 入っちゃだめよ」
森には、おもしろそうなものが たくさんある。
音楽。
見世物。
事件。
急ごうと したものの、頭のなかは、あれが見たい、
これが見たいと いう気持ちで いっぱいだった。
わくわく するもの ばかりだ。
・・・・・
ソフィアは外に出たものの、そこが どこなのか わからなかった。
道に迷って しまったんだ。
そして
一匹だと臆病なくせに‥‥
‥‥群れると、凶暴になる、ジャッカル。
雨が はげしく降りだした。
とつぜん、稲妻が はしって、空が割れた。
ソフィアは駈けだした。
ようやく着いたのに、おばあさんは家の入り口に いなかった。
いつもは、ここで待っているのに。
・・・・・
ニューヨークに住む 赤ずきんちゃん。
やっぱり
寄り道しちゃったね。